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大阪高等裁判所 昭和38年(く)70号 決定 1963年10月29日

少年 O(昭二一・一・八生)

主文

原決定を取り消す。

本件を大阪家庭裁判所に差し戻す。

理由

本件抗告の理由は、これを要するに、原決定は本少年に対し強姦未遂の非行事実を認定しているけれども、本少年はKが友人であるHと親密な間柄にあつた○谷○子の姦淫を企てこれを呼出し同女に対して「曩に人前で恥をかかせたから今度は復仇的に恥をかかせてやる」といつて被害場所に連行した事情を知らないで偶然同所に赴き右Kの詐言を信じて軽卒に行動したものであつて同女に対して姦淫の意思もなく、K等と共謀した事実もないのであるから本少年には何等の責任がない。そして本少年は未だかつて一度の非行歴もなく、優秀な才能と勤勉精励な素質を持ち且つ日本に帰化を許された善良な父と目下重病患者として入院中の母を持ち、幼い弟妹多数を抱えて経済的に老父の負担を助けている模範的少年工員であるに拘らず、非行歴を有する他の少年と同視して本少年を中等少年院に送致する旨の原決定は著しく不当であるからその取消を求めるというのである。

よつて本件少年保護事件記録及び本少年の調査記録を精査して原決定の当否について検討すると、本少年はビニール草履の加工を業とする実父大○英○と実母△子との間の長男であつて、昭和三六年四月○○工業高校電気科に入学したが、昭和三七年夏頃から実母が肝臓病を患い入院したのと学校を卒業しても元の国籍のために就職できないものと考えて同年一〇月中途退学しその後は斎○産業株式会社にゴム風船の製造工員として入社し爾来真面目に勤務し、月収一万五千円位を得て全部之を家に入れて父の経済的負担を助けていたが、昭和三八年春頃から不良仲間のK、S等と交遊するようになり、原決定の通りKが友人Hと親密な間柄である○谷○子(当時一七年)に対して同女を強いて姦淫しようとする意図の下に因縁をつけているところへ行きあわせ、右Kの意図を察知しながらKから「ようやらんのかやれやれ」と言われるや、居合せたS、Bと共に意思を相通じて自ら同女を突き倒した上同女を押えつける等して本件非行に積極的に共同加功しているのであつて、原決定には何ら重大な事実誤認はなく、そして本少年が果した役割から見てその退行的な不真面目な行動は軽視できないのであるが、本件非行の主謀者はKであつて本少年はそれに追従したに過ぎないものと見られ、本少年の非行性は未だそれほど進んでいるとは認められず、家庭の保護能力等の点については実母は病気入院中であるが実父は実直温厚な人柄であり家庭内の折合もよく、その他少年の家庭状況や少年の雇主である斎○産業株式会社々長斎○充○は本少年の将来を嘱望し、今後共引続き雇傭して厳重な指導監督をすることを誓つていること等を考え合せると、本少年の環境調整と性格矯正のためには寧ろ在宅保護が適当と考えられる。したがつて原裁判所が本少年を中等少年院に送致する旨を決定した処分は著しく不当であると認められる。

よつて少年法第三三条第二項少年審判規則第五〇条に則り主文の通り決定する。

(裁判長裁判官 奥戸新三 裁判官 竹沢喜代治 裁判官 野間礼二)

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